議論は、その対象が高尚であればあるほど、その面白さは反比例する

 

占い師はお昼寝中 (創元推理文庫)

占い師はお昼寝中 (創元推理文庫)


 

生存者、一名 (祥伝社文庫)

生存者、一名 (祥伝社文庫)


 

邪馬台国はどこですか? (創元推理文庫)

邪馬台国はどこですか? (創元推理文庫)


 の三冊を読了。上から 短編集・中篇・短編集 のコンビネーション。
 今日は時間があるので、久しぶりに個々の作品の感想でも書こう。テストが終わって気分の良いし。

 まず『占い師はお昼寝中 (創元推理文庫)』から。う〜ん、同著者の「猫丸先輩」シリーズと同じ系統だなあ。あくまで作中で示される"解決"はその作品内でも"推理"の域を出ていない。「こう考えたら、辻褄が合うよ」と、その位の保障しかないわけだ。そもそもミステリーと言う分野では、"推理"の不確実性が論じられているわけで、それへの一つの答えを示しているわけ(と勝手に思っている)。

 ちなみに主人公は大学生の美衣子とその叔父辰寅。名探偵役は辰寅なのだが、その職たるや「"インチキ"占い師」。辰寅は適当な書物をでっち上げ、架空の妖怪を作り出し、水道水の霊水と、近所の花屋で買ってきた榊のお神枝で、これまた適当な般若心経で占いを行う。仕事が無いときは、一日中(駄猫のように)昼寝。まったくもって非常識な人間である。
 これでは普通、占いは当たらない。しかし、その適当な占いの間にデータを集め、その裏にある真相を見つけ対処する――、と言う、まあありがちといえばありがちな設定。

 で、個別の短編の一言感想。

 【 水溶霊 】 キツイなあ。すぐに後の展開は読めたけど、あまりその先を考えたくなかった。
 【 占い師は外出中 】 手が込みすぎ。何書いてもネタバレになりそう。
 【 壁抜け大入道 】 結局、この作品集で実害があるのはこれだけ。しかも窃盗だし。最初にして最後、辰寅が自発的に事件に関わります(半ば強引にだけど)。

 他【 写りたがりの幽霊 】 【 三度狐 】


 『生存者、一名 (祥伝社文庫)』は書き下ろし中篇。語るより読んでいただいたほうが早いけど……。
 落ちが、落ちが気になりすぎ。どっちだ!? どっちなんだ!! 
 ……うん。これだけ。


 この三冊の中で一番面白かったかもしれない『邪馬台国はどこですか? (創元推理文庫)』。

 一言感想から。

 【 悟りを開いたのはいつですか? 】 記念すべき第一篇目。しかし看板に偽りあり。結論は「悟りを開いていない」だからね。
 邪馬台国はどこですか? 表題作。また荒唐無稽な……。けど説得力がある。何故だ?
 聖徳太子はだれですか? 】 この説は前に聞いたことがあった。権威のある書物を悉く否定する精神はここにあり。
 【 謀叛の動機はなんですか? 】 信長が大量虐殺をしたのは知っていたけど、ここまでの量とは……。小説による巷のイメージの捏造は、三国志の例をみても明らかだし。とても説得力があった。
 【 維新が起きたのはなぜですか? 】 これが一番ぶっとんでる。けど尊王攘夷―明治政府の政策のギャップの話は目から鱗。そういわれてみればそうだ。
 【 奇蹟はどのようになされたのですか? 】 探偵小説的だ。凄い。裏切り者から英雄への転生とも取れる。

 全体として。ことに歴史に関して私は全くの門外漢なので、この作品で展開されている"解釈"が学会等で如何なる扱いを受けているかは知らない。が、私が学校で習った内容とは明らかに異なる(でなければ、この作品をここまで面白く思うわけがない)。と言う事は、だ。この解釈は異端、もしくは鼻にも引っ掛けられていないかのどちらかである。解説にもそんなことが書かれているし。

 歴史ミステリーの(作者、読者両方に関しての)「難しさ」はいつまでも付きまとう。正直、作中に出てくる漢文や古典を読むのは苦痛だった。けれど、その先にある驚きを信じて読み進めることができた。
 良作。


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 文字打ちすぎで疲れた。眠い。