小説?
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例えば、ここに中学生ぐらいの男の子が居るとします。
彼の好きなことは読書。特に、『推理小説』なんて呼ばれているジャンルの本が好きなのです。その他にも、彼はホラー小説や恋愛小説、歴史小説も好きなのです。
そんな彼が、ある日人を殺します。
その人は彼の同級生でした。
理由は、まあ、色々です。
しかし、最低でも彼はいわゆる『シリアルキラー』でも、精神を患っている訳でも有りません。
まあ、そんな訳で、彼は警察へ連れて行かれます。
「何故殺したのか」
「なんでこんなことをしたんだ」
言い方を変えた、しかし内容の変わらない尋問が続きます。彼はボウとしたまま、その問いには何も答えませんでした。
彼は自らの手で、人を殺したというショックで、口が利けなくなってしまったのです。
何も考えられなくなってしまったのです。
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そんな頃、世間では新聞紙上は彼の起こした事件の話題で、溢れていました。
心の闇。
精神鑑定。
倫理観。
そんな、この手の事件には有りがちな、しかも無責任な文字が躍っています。
ある新聞では、
少年Aは動物を虐待していた!
などとした見出しを付け、彼には身の覚えの無い、痛々しい動物達の写真を掲載しました。
大衆はこの事件の記事を見るたびに、目を逸らし、つばを吐きかけながら、しかし、野次馬根性と好奇心の塊となって記事に見入るのです。
そんな日が数日続いた後、その『少年Aは動物を虐待していた!』という見出しを付けた新聞が、またある記事に、読者の目を引く、その意味では素晴らしい見出しを付けました。
それは…
『少年Aは異常快楽殺人のミステリ小説を読んでいた!』
この記事を書いた人は、彼の友人から、彼の趣味について聞き出し、それに空想を継ぎ足して、記事を書いたのです。
この記事は、後に他の新聞社も盛んに取り上げ、盛り上げたお陰で、世間の人たちの心の中に定着していきました。
彼はたしかに推理小説を愛読しています。
しかし、それが何だと言うのでしょうか。
彼は推理小説の影響で殺人をしたのではないし、そもそも、彼はあまり沢山人の死ぬ小説は好きでは無かったのです。それは彼が一番知っています。しかし、それをみんなに向かって言うことが出来ません。声が出ないのです。
その間にも、皆の心の中で、彼は空想と現実との区別が付かない異常者になり、人を傷つける事に快楽を覚える殺人狂になりました。
挙句の果てには、それは推理小説への世間のバッシングに繋がりました。彼は好きだった推理小説の創造主達から、嫌われました。
ネット上には、彼の顔写真が載り、彼への誹謗中傷が耐えませんでした。
兄弟は学校に行けなくなりました。
父親はいつの間にか、家から居なくなりました。
母親は、病気になりました。
祖父母は田舎から出て行かなくてはなりませんでした。
家は、毎日投げ込まれる石で、窓ガラスが無くなりました。
電話はいつもなっています。
壁は落書きだらけになりました。
こんな酷い事をやった人の中には、今まで親切にしてくれていた、近所の人たちも含まれていました。
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彼は自由になりました。
もう、彼を阻むものは有りません。
しかし、何のありませんでした。
彼は、再生されるべき場所で壊れてしまったのです。
再生する場所で。修復する場所で。
大人たちは、壊れていなかったものを、壊れた物と一緒に分解して、壊してしまいました。
壊されたそのおもちゃは、指を指されながら歩いて行きます。その後ろ姿とその背中の大きさは、あの時の彼の大きさよりも一回り大きいのです。
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ちなみに、これも私の妄想です。
主に http://www.cypress.ne.jp/hp10203249/pp/0311b.html#p031115b、http://umi.no-ip.com/simple/pd200311.html#2003-11-14、http://www.enpitu.ne.jp/usr4/bin/day?id=41506&pg=20031114、の記事を読んで、妄想を膨らませました。
ちょっとは文章の鍛錬の役に立ったのかな…。