偶然の審判

 毒入りチョコレート事件 (創元推理文庫 123-1) 毒入りチョコレート事件 / アントニイ・バークリー
 を読了。

 素人探偵ロジャー・シェリンガムを会長とし、劇作家、元判事、推理作家などから構成される《犯罪研究会》。その会合で、ある一つの事件を議題として取り上げた。それはスコットランド・ヤードのモレスビー主席警部が持ち込んできた迷宮入り確実とされる難事件だった……。

 《犯罪研究会》の会員の面々が、それぞれ六者六様の《解決》を各々の「推理」によって導き出す。
 発表された他者の推理を踏まえ、それを否定し、はたまた肯定し、新たな情報を加え、理論が研ぎ澄まされていく。その過程は読んでいるだけで面白い。

 紛れもない名作。<< ネタバレ的な感想 >>
 この作品には《解決》は無い。
 作品上で登場人物達が推理によっていたる「解決」、それが本当の解決であるかどうか、それは分からない。作者は最低でも地の文で、チタウィック氏の《解決》が真の解決で有ること、それを保障していない。その後の過程が全く書かれていないから。

 結局、警察の見解が当たっていた可能性も十分に有る。この作品に書かれている全ての議論の過程が無駄であることが、あるのかもしれない。

 ただ、一つ言えることは、この作品の主眼の一つに「名探偵の敗北」があることだ。


 ――バークリーは作中でチタウィック氏の口を借りてこう語っている。

 「この種の本の中では、与えられたある事実からは単一の推論しか許させないらしく、しかも必ずそれが正しい推論であることになっている場合がしばしばです。作者のひいきの探偵以外は、誰も推論を引き出すことができなくて、しかもその探偵の引き出す推論は(それも残念ながら、探偵が推論を引き出すようになっているごく少数の作品でのことですが)いつも正解にきまっています。(後略)」


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 『逆さに咲いた薔薇』は見つける事が出来なかった。明日になればあるかな……。